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 インプラントの補綴修復のポイントまとめ

 前歯部欠損・インプラントの補綴修復作業について(2010時点のまとめ 歯科関係者向け 備忘録?) 


*インプラントの補綴修復は印象採得がすべてを決定します。 模型が正しければストレスなく修復操作は進行します。 再製作が入れば患者さんのみならず担当技工士にも大きな負担がかかりますので、特に多数歯の修復であれば印象だけは完璧を期すべきでしょう!

*印象トレーの要件や接着剤、印象材の使用法は一般歯牙のクラウンブリッジにおける精密ラバー印象法に準拠しますが、精度が求められる上部構造に連結が必要なケースでは印象コーピングの周りに柔らかい支台歯のマージン用印象材を使ってはいけません。 スクリューホール等の必要ない箇所への印象材の侵入が見られるうえ柔らかい材質のため、肝心の模型へのアナログのトランスファーに誤差が発生しやすくなります。 オープントレー法では印象材内でのコーピングの遊びにつながり、クローズドトレー法ではコーピングを印象材に戻すときに落ち着きが悪いものとなります。

*将来のメインテナンスを配慮した複数個所にスクリューを併用した精密で複雑な修復物製作方法は、いわゆるシリコン系の印象材(型取材料)の使用では達成が困難といえます。 入手が可能でしたら硬度の高いポリエーテル系のImpregumのような印象剤を使われるのが望ましいといえます(いくつかのポイントに細心の注意が施されるのが前提ですが! 歯牙・顎堤のアンダーカットの処理等 またシリコンと違い消毒液への浸漬で変形の怖れあり)。

*3歯(本)以上の場合、印象用コーピングはオープントレーでネジ留めのものを使い(ピックアップ印象)、コーピング同士を(しなやかで永久歪みのほとんど出ない)形状記憶の矯正ワイヤー(角線)で(パターンレジン以上の精度の)即時重合レジンにて固定します。 コーピング同士の位置関係の狂いを最小限にするとともに、コーピングにかかるトレー撤去時の応力によるワイヤーの変形やレジン固定の脱離・歪みが可及的に防止されるようです。 模型作製時のコーピングへのアナログの固定にも誤差が許されませんので、より精密な作業を約束する手段となるでしょう。

*クローズドトレーでトランスファータイプのコーピングを3本以上使用する場合は新品を使いませんと、古いコーピングの傷や角の丸みが印象に戻す時の誤差を惹起させます。 また、クローズドトレー法印象ではコーピング(フィクスチャー植立)の平行性が悪いとトレーの除去時に印象材に変形応力がかかったり、トレーから印象材の部分剥離も起こりえます。 いずれも複雑な作業には向かない精度の模型となります。 それでも内冠セット後もう一度印象をとる程度の仕事なら差し支えありません。

*精密印象前にフィクスチャーとコーピングの固定に自信がない場合は必ずX線写真にて適合を確認することは常識です。 エキスターナルタイプで歯肉下深い位置でのネジ留めは特に注意を要します。 ヒーリングキャップの締め付けが甘いと、フィクスチャー上に増殖した歯肉がコーピングの適合を阻害します。 コーピングのネジ止め時に痛みがある場合は歯肉の薄片を挟んでると考えましょう。 また歯槽頂レベルで外側性保持のフィクスチャーを埋入した場合やメンブレンを利用し辺縁骨が間近にある場合は、コーピングの幅径がプラットフォームより大きいと僅かな骨との接触がコーピングの浮き上がりにつながることもあります。 

*フィクスチャーと印象用コーピング、模型作製用アナログの安定感や精密度は、インプラントシステムに拠って雲泥の差があります。 低価格のシステムは補綴オプションが少ないとともに、口腔内から模型へのトランスファーに誤差が大きいため、どんなに努力してもスクリューを多用した上記のような内容の製作方法は無理といえます。

*複数の内冠を利用する連結した修復物の装着には、必ず模型上での内冠の位置関係を記録したジグ(金属で鋳造したものかレジン製)を介して内冠を固定しませんと、スクリューシステムの微妙な遊びに拠り上部構造に浮き上がりが出てしまいます。 このジグはメインテナンス用に正しく保管し無くしてはいけません!

<臨床のTips ; 紛失したり他院の後始末の場合は、①上部構造内面を(硬化後の硬度の高い)ラバー印象をしたうえ、必要とされる複数の内冠が採取されたコピーを作成します。 ②所定の範囲にパターンレジンを筆詰みで巻きつけ自然硬化させブロックをつくります。 ③スクリュー部をくり抜き余剰部をトリミングすれば、まずは問題なく内冠の固定用ジグとして使用できます。 なお最初から不適合のものには適用できません!>

*前歯部位では各欠損歯に連続してフィクスチャーを植立した場合は、清掃性の悪化と費用の増大にかかわらず最善の審美性は達成不能か、もしくは軟組織にオーバートリートメントといえるほど複数回の侵襲的な処置を追加する必要に迫られ、結局は患者さんに負担を強いる症例作りのための治療に堕してしまうでしょう。

*多数歯の修復におけますフィクスチャーの植立は必要ならサージカルステント等を用い、理想的な歯冠修復を予期しておこなわねばなりません。 それでも中切歯部は最も植立が困難で、長期間欠損状態で顎骨の吸収が大きい場合、切歯管や切歯乳頭を避けようとして側切歯方向に変位してしまう傾向があります。 結果として修復物製作時に前歯の形態付与に影響がでますので、両側中切歯部の植立を回避するのも考慮されましょう(側切歯部への植立は必ず確保したい犬歯部と隣接しますのでフィクスチャーサイズの選択がポイントです)。
なおインターネット上には一見綺麗でもプロには見せられない”バケツ冠”のような修復も見受けます。

*ステントや術前のシュミレーションは顎堤が優形な場合は非常に役に立ちますが、一般に前歯部ではフィクスチャーより狭い顎骨に植立せねばならない場合も多く、(ステントに頼りきりならず)技工製作時の空間的な歯牙排列イメージや、インプラントシステムにおける連結装置であるアバットメントのヴァリエーションを知悉し、どのような固定様式を選択するかを常に意識して外科処置もおこなわねばならないでしょう。 また残根の位置と本来の理想的な前歯排列は歯牙移動により異なる場合も多く、抜歯部に植立しても必ずしも理想的な当該歯の位置とはならないことが多いようです。 入れ歯が苦手の駆け出しのインプラント屋さんには理解不能でしょうが実際のところは義歯の人工歯排列に近い感覚があります。 ボーンアンカードブリッジに逃げる手段もありますが、患者さんは清掃の簡易さもふくめ通常の歯牙形態が喜ばしいようです。

*All-on-4のような少数のインプラントによる即日仮修復を前提としたシステムは、前歯の欠損治療の位置づけにおいて患者さんの審美的な欲求を満たすものではありませんので、このページにおいては無視させていただきます。 また傾斜埋入した長大なフィクスチャーは中間部への追加植立を阻害しますし、フィクスチャーやスクリュー部の破損が起これば除去には大きな外科的侵襲を免れないので、金属疲労も考慮すれば数十年間の使用に耐えるシステムではないでしょう。 将来的にはリカバリー処置の危惧される方法論と考えられます。 メーカーの提供するものはすべて正しいことではないのは歯科材料の推移・盛衰をみれば明らかですが、教養レベルの科学的な洞察力(直観)も当てになるものです。 (経済力?や顎骨の状態が良ければ欠損歯数分のインプラントの植立を患者さんに強調する歯科医が、一方でお望みならAll-on-4のようなシステムもありますよと品を換えるのもダブルスタンダードで自己矛盾のようですネ。。!)

*辺縁骨の吸収がすくなく審美的に優位とされるプラットフォームスイッティング(シフティング)とインターナル・コネクションを売り物としたタイプのフィクスチャーには過大な咬合力に破壊を受けるものも見受けられますので、将来隣接歯の喪失に拠って単独修復がブリッジの支台装置に改変される可能性もあるなら、他の選択肢も考慮すべきでしょう。 またアバットのスクリュー固定にジグを使用しないと位置関係を固定できない(回転防止機構のない)システムは、ジグを失ったり隣接歯の変化があればアバットの取り外し後に再び適正位置に戻すのが回転を伴い難しいものとなります。(最新のシステムには殆どが回転防止機構が付与されるようになって参りました。 なお当院ではH23年より前歯部位には Straumann社 のBLタイプの利用が増えています。)

*インプラント治療を受けます患者さんは着脱式義歯を使用せず歯牙欠損部を放置している場合が多いので、臼歯部の咬合接触が回復すると顎関節への負荷が軽減するせいか、回復したはずの臼歯部の咬合がいつのまにか低位となる傾向も認められます。 新たに接触関係を緊密にする必要がありますが、見逃していますと強く接触する前歯のセラミックスが破損したり、徒に歯冠部の調整となれば形態も悪化したりしますので、臼歯部位も含めた前歯多数歯修復ではあらかじめ暫間的な修復で咬合の安定をはかることも重要でしょう。

*サイドスクリューやインプラントシステム固有のスクリューを使用する場合は、修復物の装着手順を写真・スライドで保存すべきでしょう。 アフターケアの観点から患者さんの通院が困難になった場合を想定しますと、近医に紹介依頼する際に必要な記録となります。 デジタル化していればメール添付も可能となります。 また多人数の術者をかかえる医院では担当者が退職する際の引き継ぎにも有効となるでしょう

2017年現在の補足

*高価なこともあり一般にはまだ浸透していませんが、光学スキャナーによるデジタル印象の進展は、BIOMET 3i のEncode システムのように特別なヒーリングキャップを媒介として、植立されたフィクスチャーの深度や方向、位置関係を精密に再現することも可能となって来ました。 スクリュー固定でないカスタムメイドのアバットをCAD/CAMで製作しそれを口腔内に固定しもう一度印象する方法ならすぐにでも臨床に活かすこともできますが、まだ多数箇所のスクリューリテインへの応用には及ばないようです。 同じBIOMET 3i のROBOCAST のように作業模型を掘り込みアナログを自動的に設置する方法が多数のフィクスチャーに対しても十分な精度を高めてくれることが待たれます。 
 

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